劇場版『Fate/stay night [Heaven's Feel]』第2章 『Unlimited Blade Works』の完結編【ネタバレあり・感想】

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想像をはるかに超える絶望。ここまで、ひとりのキャラクターに絶望を与えなくてもいいのではないかと思う。第1章での伏線を全て回収し、全編を通して丹念に桜という人物と、過去をあぶり出していく。

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物語のジョーカーは?

『Heaven's Feel』第1章の記事で、物語のジョーカーは真・アサシンや、ギルガメッシュと予想したが、全くのハズレ。

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ギルガメッシュにひざまづかせる寸前まで行き(ギルガメッシュはあそこで退場?)殆どのサーバントを捕食した影の正体はもっとも違ってほしいと願った人物。

※ネタバレになるので、ネタバレOKの方のみスクロールをしてください。
















今作は2部構成で描かれている。もっとも大切な士郎、実の姉である凜、桜にとって理想ともいえる家を手にし、ある種の幸福を手にした前半。そして、影の正体と桜の過去と運命がすべて明かされる後半。幸福から絶望へ、ジェットコースターのように奈落へ真っ逆さま。セイバーをはじめとするサーヴァントを次々と捕食。だが、サーヴァントでは飽き足らず、一般の人間をも食らう影。ギルガメッシュの一撃を受けても死なない桜の姿をみて、唖然とさせられる。『Fate』シリーズの中でも、異色の敵としてマスターとサーヴァントの前に立ちはだかる。影自体が聖杯の意志であるという、切嗣が味わった絶望を同じように突き付けられる士郎。『Heaven's Feel』という作品がまるごと、理想の為に超えるべき壁として、衛宮士郎の前に立ちはだかっているのだ。『Fate』シリーズの完結編へと続く物語としては完璧かつ、もっとも絶望的な1作として、『Heaven's Feel』第2章を迎えたいと思う。

 

悲しさにあふれた桜の過去

しかし、ここまで桜に辛い仕打ちを与えるのはどうだろう。一人になった桜に手を差し伸べる士郎。冷たい雪の世界から、雨の描写に変化する場面表現もあいまって屈指の名シーンとなっている。その後の処女宣言をはじめとする桜の言葉、そして、彼女の妄想一つ一つが、まるで悪夢のような現実世界から自分の身を守るためにであり、大切な人に自分の汚い部分を見せないようにするため。まるで『風立ちぬ』の菜穂子のように、美しいものだけを見てもらいたいという桜の心情だろうか。それを間桐慎二によって破壊されるときの悲しさといったらない。桜を好きな観客ほど耐えがたい瞬間であると思う。まったく爽快感がないまま、ラスト、黒桜になるシーンには、ただただ悲しさを覚えた。桜の辛さと悲しみを演出出来たことに関しては見事である。辛過ぎではあるが。間桐の一族はもちろん、桜を養子に出した遠坂時臣の罪ははかり知れない。



Fate/stay nightUnlimited Blade Works』の完結編

今作で前作と『Unlimited Blade Works』のすべての伏線が回収されている。桜の秘密、 間桐臓硯の真意、イリヤの想い、そして、アーチャー。特に『Unlimited Blade Works』の不満点の一つに、物語のラストで自分の道を貫く覚悟した士郎が、その先に何が起こり、どうアーチャーになっていくのかがほとんど描かれていない。ある意味、余韻というか想像する余白を与えたとも言えるだろうが物足りなさも感じた。しかし今回起こったこと、そして次回に起こることを想像すると、アーチャーへと変貌を遂げるイメージが沸くと思うし、そのエピソードとしては、これ以上ないもののように感じる。それは、士郎を助けるためにアーチャーからの片腕(意志)を受け継ぐというビジュアル的にも表現されている。若干、衛宮切嗣の夢を引き継いだ士郎の決断としては、葛藤が少なかった気がするが、映画の尺としては、仕方がなかったとも思えるし、桜の過去を想えば、納得できるものでもある。



Fate』史上もっともハイレベルな戦い

どちらかといえば、後半はアクションが少なめであったが、前半の、特にバーサーカーVS黒セイバーは桁違いの大迫力で、次元が全く違うハイレベルは戦いを見せてくれた。過去のすべての『Fate』作品の中でも最高の戦闘シーンだったと思う。



ここまでの挑戦的で、大胆な内容を映画ランキングの1位になるような作品で作ることができたことも驚きであった。第1章が2017年秋、第2章が2019年冬、そして完結編となる最終章が2020年春という、完全に計算づくめの公開日のように、来年の春にきれいな桜が咲き、それを見ることができることを楽しみに1年待とうと思う。