傑作『ラ・ラ・ランド』がアカデミー賞を逃した理由【評価・感想】

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世界中(もちろん日本でも)大ヒットを飛ばした『ラ・ラ・ランド』は、ミュージカル映画でありながら、ラブロマンスなどの要素を高い水準で表現していた傑作だった。それは、監督のデミアン・チャゼルの演出、ライアン・ゴズリングエマ・ストーンの演技、全てが高いレベルにあり、アカデミー賞を受賞するべき作品だったと思う。しかし、「つまらない」などの評価や感想が、ネットでは見受けられた。なぜそのような評価が出たのか、アカデミー賞を受賞できなかった理由を含めて紹介します。

ラ・ラ・ランド 傑作 アカデミー賞

引用:映画『ラ・ラ・ランド』公式サイト

 

 

目次

 

 ※ネタバレありで記載しております。未鑑賞の方はご注意ください。

つまらない⁈『ラ・ラ・ランド』の評価・感想

「つまらない」「最高」と言った賛否両論の評価・感想があるので、先に自分の評価を記載しておく。

あまり期待していなかったが、いい意味で期待が裏切られた。いや、言葉が足りない。本当に素晴らしい映画に出会えたと思うし、映画館で鑑賞できず、とても残念だった。自分の映画史、オールタイムベスト10には必ず入るだろう。あまりミュージカル映画が好きなわけではないが、『ラ・ラ・ランド』はミュージカル映画でありながらミュージカル映画の枠にとらわれない一作だった。理由は後述するが、全ては監督のデミアン・チャゼルの演出によるところが大きい。本作で、アカデミー賞の監督賞を受賞したのも納得であり、アカデミー賞の作品賞を逃したのもまた納得の作品であった。

 

ミュージカルシーンが少なめな訳

ラ・ラ・ランド』では、ライアン・ゴズリング演じるセブとエマ・ストーン演じるミアの物語、つまりラブストーリーである。

冒頭、ハイウェイでのミュージカルシークエンスで、観客の度肝を抜く。縦横無尽に動き回るカメラワーク、それをワンカットでやってしまうからスゴい。歌と踊りも文句なしの圧倒的な完成度のオープニングである。その後のミュージカルへの期待をさせるが、セブとミアの登場によりミュージカル部分は鳴りを潜める。心配無用。ミュージカル好きの人は消化不良にならない、抜群のタイミングでミュージックが鳴り響き、スクリーンの中で踊り出す。ミュージカル映画でありながら、ラブロマンスも提供する作りになっているので、よく言えば両方楽しめるハイブリット、悪く言えばどっちつかずの印象を与えてしまう。特にミュージカルファンにとっては、多少消化不良のところもあるのではないか。

それ以外にもジャズやハリウッドに関する要素も『ラ・ラ・ランド』には入れられている。それらのスパイスは、あくまでスパイスであって、それをじっくりと表現しようとしている訳ではないが、あまりに表面的だとは感じる。例えば、セブがジャズの店にミアを連れて行き、ジャズの生演奏を聴かせるシーン。悪くはないと思うが、ジャズの生演奏の素晴らしさを感じないし、セブがジャズについて熱く語る意味もよくわからない。ミアに対する、一方通行のコミュニケーションである。その熱い語りが、ジャズを好きな観客ほど、鼻についてしょうがないと想像できる。ではその弱さに対して、監督のデミアン・チャゼルは的確なタイミングでミュージカル描写を入れることで隠したのだ。嫉妬を覚えるほど周到な手腕により、ジャズやハリウッド描写、そしてミュージカル要素が魅力的に見えるように弱い部分を観客が忘れさせるようにあえて、様々な要素を盛り込んでいるのだ。それにより、物語が破綻しそうになるところを、抜群のバランス感覚でまとめ上げ、どの分野にもいい顔をするという、一流営業マンみたいなことを平然とやってのけたのだ。だから、ミュージカル好きな人には、不満を感じるだろうし、ジャズが好きな観客にとっても、同じく不満を感じるだろう。しかし、より大きなパイを取るためにあえて、多くの要素を取り入れ、そして賭けに勝った。監督賞受賞も納得である。

 

アカデミー賞を逃した理由

屈指の傑作である『ラ・ラ・ランド』がアカデミー賞を逃した理由を探ろうを思う。

本作は、『ラ・ラ・ランド』というタイトルの通り、ロサンゼルス、ハリウッド業界の描写に力を入れているように思う。映画好きであればあるほど、憧れのハリウッドの日常にうっとりとし、引用される名作の数々に自分の思い出を重ね、ノスタルジーに浸るだろう。今作では、古き良きハリウッド黄金時代の作品を引用することにより、憧れのハリウッド世界を彷彿とさせ、映画に思い入れがあるばあるほど、感動するように作られている。間違いなく、ハリウッド業界人を狙った作品である。古き良きハリウッド黄金時代の映画を引用しながら、現実と挫折を味わう物語。そのコンセプトは、過去にアカデミー賞を受賞した『アーティスト』のコンセプトと類似しているよう思う。

『アーティスト』は、白黒かつサイレント映画の技法を用い、ハリウッドを舞台に没落している俳優を描く物語である。『ラ・ラ・ランド』、『アーティスト』共にハリウッド業界人にノスタルジーを感じさせ、共に憧れのハリウッドの街で挫折を味わう物語としては、コンセプトはほぼ同じではないだろうか。クリント・イーストウッドが『グラン・トリノ』でオスカーを取れなかったように、同じコンセプトの作品には、オスカーは与えられなかったのではないかと想像する。白黒のサイレント映画として世に送り出した『アーティスト』の方が、より挑戦的だったことを踏まえると、『ラ・ラ・ランド』がオスカーを逃したのは、仕方がなかったのかもしれない。もちろん個人的には、是非ともアカデミー賞作品賞を受賞して欲しかった。

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傑作『ラ・ラ・ランド』が、だたのミュージカル映画ではない理由

個人的な感想を言わしてもらえば、ミュージカル作品はそこまで得意ではないので、『ラ・ラ・ランド』のバランスはとても好みだった。物語のラストで、セブとミアが別々を歩むのだが、もし二人が別々の道を行動をとっていればという「if」の世界が掲示される。そのシーンがあるがゆえに、切なさが倍増し、単なるミュージカル映画ではなく、映画としての表現をワンランク上のレベルに引き上げている。そしてセブが開店した店でのシーンから続くラストカット、夢が叶ったのに淋しげな表情を見せるあの表情がいきるのだ。本当に素晴らしい。

名作のオマージュを散りばめながら、夢を追いながら現実に打ちのめされる切なさを絶妙な監督の演出で見事に描いている。是非見てほしい一作であり、傑作である。

 

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